揺らぐ幻影




恋資金となるアルバイトを終えた結衣は、急いでお風呂を済ませ、

戦闘モードへと気持ちを調える。


そして《ぽこりんにメールします》と、友人二人に同時送信すると、

直ぐさま愛美からは《電話いつでも構わないよ、ラム皮だからね》と、

里緒菜からは《スタンバイしとく。スタンドバイユーだから》と、少々内輪ネタめいた応援のメールを貰えたので、

緊張がほぐされ、無意識ににやけていた結衣だ。

これで近藤への返事内容に困った場合、二人がリアルタイムで助けてくれる下準備はできた。


従って恋愛見習の少女の本番は、ターゲットにメールを送ることだ。

お気に入りの猫脚の鏡台には産毛を逃さない十倍になる鏡、

デカ目の命となるマスカラや、ペンシルアイライナー等をさしている陶器の鉛筆立て、

誰かにお土産でもらった彫刻が綺麗な砂時計などが、雑貨屋さんのディスプレイのように並んでいる。

縦に長い楕円形の鏡には、眉毛が薄いすっぴんの自分がこっちを見ていた。


お昼休みに二人に採点をしてもらった近藤宛てのそれを、下書きトレイから開く。

《昨日はメールありがとう。今メールしてもいい?》


こんな中身のない文章に、休み時間はお弁当そっちのけで何分も会議をした。

緻密に推敲を重ねたメールでも、彼からすればたかがメールとなるのは承知だ。

けれど、どうしてか分からないのだが、片思いの時はいつも相手が神々しい気がして、

メールをしてくれただけで『メールをしてくださった』と、

感謝したい気持ちでいっぱいになるのだ。


きっと芸能人の握手会のように行ったことがないから謎だが、

『こんなアタシなんかと握手をしてくださるなんて優しい人』と、喜ぶ感じに似ているのだろう。


つまり、説明できない尊い人。
それくらい大きな存在の人。

それが結衣にとっては、たまたま近藤洋平だった。

夢中にさせたり、勇気をくれたり、感動させてくれたり、励ましてくれたり――勝手に感謝したくて堪らない人は、なぜだか愛おしい人だ。