揺らぐ幻影


「うん頑張ったね、でも結衣ちゃん、内容がないよ……なんて言わせないよー的な」

あははと口先だけで笑い、愛美は癖になった毛先いじりを始めた。

それは気まずい時によくする彼女合図で、

自信を無くした結衣も、つられて嘘っぽいひきつった笑顔になる。


昨晩は幸せいっぱいだったのにもう駄目、今の少女は萎んだ風船のように元気がなくなり、とても大空へと浮かべない。

一喜一憂、オーバーだと思うもどうしようもない。


「なんか薄いっつか、……結論から言うと余裕でつまんないよ、結衣のメール。かーなーりー」

「え、?」

予想外の意見に動揺し、音痴のようにズレた音程の声が零れた。

ショックというより、言葉の意味が分からなかった。

風船は高い木にひっかかってしまった模様だ。


恋心はどうして感情のままに動くのだろう、わがままだなと結衣は呆れた。


靴箱横の傘立てに置き傘をしたら盗まれがちなので、皆は自分のロッカーに入れている。

なので、ここにある置き傘は置きっぱなし埃まみれな品のため、

拝借する気も失せるくらい年期の入った忘れさられた物ばかりで、

粗大ごみのようなデッドスペースとなっている。


日なたにいるのに、三人を囲む雰囲気は日陰のようだ。

しんみりとした空気を壊すかのようにかかった声、それは―――

「はよー小崎さん田上さん山瀬さん」

「おはー」
「おはよ大塚さん」

「……あ、おーつかくん、……おはよ」


――挨拶をしたって、この胸に溢れるのは近藤で、考えただけで不安になるのだって近藤で、

すれ違うクラスメートの大塚に好きな人を当て嵌めるのが結衣だ。


挨拶の意味を眼中にない奴からなら習えない。
近藤でしかだめだなんて、その仕組みが理解できない。


「メール失敗だった?」

ちくりと痛む胸になるのも近藤だ。

結衣の身体なのに、全部を操るのはいつだって近藤だなんて、

彼が一体彼女に何をしてくれたと言うのだろう。

知らない間に支配されていて、気付いた時には既に占領されていて、

今更引き返せなくなるのに、肝心な人物はここには居ない悲しい現実がむなしい。