揺らぐ幻影


E組で採点をすると六番目に可愛いと言えるのではないだろうか。

こんな風にナルシストでシビアな生徒が教室にたくさん居るのは秘密だ。


  なんか平均的……?

  微妙に可愛い感じ?

  そーいや男子がやってたランキング五位だったっけ

  ……里緒菜よりは可愛いよね?


そこまで考えた結衣は瞬きを一回、二回ゆっくり数えた。


  ……。

突然膝かっくんをされた時のように、一瞬何があったのか状況が掴めなくなる。

なんて自意識過剰なのだろうか。

自分の容姿を自分で採点して、あろうことか少なくとも可愛い部類だと自負しているのだから、

図々しくて厚かましいとんでもないビッチ女ではないか。

女は時に残酷だ。
冷静に自分のポジションを把握する。

現に結衣は里緒菜のことを自分より劣っていると判断してしまっていたのだ。

  私性格わっる、最悪

  ナルシー? ほんと最低、ナシ

ほとほと情けなくなり、自身の顔にもスタイルにも性格にも、何もかもに溜め息をつく。

盛大な負のパワーは、授業が始まって三十分経とうが何も書かれていないノートの上に乗っかっただけだった。

皆が勉強に励む様子を眺めて、またため息を一つプレゼントする。


彼女のシャー針がなかなか減らない理由はこれである。

どうせ誰かのノートのコピーを自分のノートに貼れば事は足りるのだ。

いちいち板書を書き写す意味がよく分からない。

無駄な労力を削減するなんて流行りのエコ精神に乗っ取っていると開き直る性格は、

少し難ありかもしれない。


その癖、田上結衣と言う女は甘い顔立ちのせいで、

初対面の人は外見と性格のギャップに戸惑う場合が多い。

おしとやか、可憐、天然ボケ、そんな第一印象を裏切るのは、

自虐ネタ大好き、シュールな話し方、ウケ狙い小話――と言った具合でいつも楽天家なノリで、

『黙っていればクラスで一番可愛い』そんな噂がE組にあることを彼女は知らないし、六番目で満足している。


椅子をがったんがったん鳴らして終わりのチャイムが歌われるまで一秒一秒数えるのが、

今の結衣にとっては最大の仕事なのだが、親御さんが悲しむでしょうの典型なのかは謎だ。