揺らぐ幻影


本当に充実している。
恋愛は自分を見つめ直すために、必要なのだと思わずにはいられない。

思春期に人を好きになることは、人生で尊い意味があるはずだ。

誰かと関わることで人間性が成長する。


情操教育には絵やピアノといったお稽古も大切なのだろうけれど、一番深く関連するのは恋のような気がしなくもない。


「はあー、返事来るかな」
『大丈夫ってば』
「夢みたい、信じらんない」
『好きでしょ、大丈夫』
「好きだよー困るくらい……気持ち悪いくらい、あはは」


愛してやまない近藤への想いを語り始めた時、

「結衣! 長電話すんなって! FAXしたいから切って!」

ヒステリーかと引くほどの怒声がした。


体のラインが綺麗に出るベージュのパンツスーツ姿の女が、白い紙をヒラヒラさせて般若のような顔面で立っている。


「、おねえちゃん」

苛々した目で睨まれても妹は困るしかできない。

  さいっあく最悪最悪最悪

  この人聞いてた? 聞こえてた?

  やだー聞こえてた?

  ありえないよ、プライバシー侵害


ノック音もドアを開ける音も聞こえなかった。

いつから姉はそこに突っ立っていたのだろうか。

好きだのなんだの熱を込めて言った自分は何なのか、結衣は恥ずかしいったらない。


ふわふわと綿菓子でいっぱいだった部屋は、たちまちハッカを丸呑みしたように冷気が漂う。


ウケ狙いで自信満々一発芸をして だだ滑りした時のように恥ずかしいし、

ラブレターを盗み読みされたかのように頭の中が空っぽになり、

その態度がますます姉を苛立たせているとは気付かずに、結衣は女王様を見たまま固まっていた。


  聞いてた?

  聞いてたよね?

怒りにオーラがあるならば、姉の輪郭の三十センチ周りは湯気でぼやけているように感じたし、

それは暖炉の明かりよりも、当然火事現場のような怒り立つ炎に似ていたのだとか。

それでも結衣としては、惚気を聞かれたのだから非常に照れ臭い。身内だと余計に赤っ恥だ。