昔は雪女とあだ名を付けられて大嫌いだったけれど、色白の肌はよく羨ましがられるから好きだし、
潰れた二重で眠そうな黒目がちの普通よりは大きめの瞳はナルシストにお気に入りだし、
とりあえず結衣のルックスにマイナス要素は少ないと思われる。
鼻は高いのか低いのか謎で、唇は……そもそも鼻も唇の形も気にした時がなかったので、まあ平均的なのだろう。
全体的におっとりした印象を持たれる顔立ちで、童顔までとはいかないが、甘い顔だとよく言われる。
結衣は自分をブスだと思ったことはないけれど、美人だと思ったこともなく、
たまに廊下で先輩に可愛いと野次を頂いたり、人並みにナンパはされるものの、
総括すると十人中七人は可愛いと言うが、三人は『普通じゃね?』と言う程度のレベルだろう。
普通、あるいは贔屓目に見てちょっと可愛い?と、ハテナが付くくらいなのではないだろうか。
プリクラ手帳は、授業中の暇潰しとして友人の間で貸し借りをしあう。
誰が最初にプリクラをノートに貼り、絵日記のようにコメントを書き、
今で言うプリクラ手帳を編み出したのだろうか。
世間で定番になる第一人者は一体どこのどいつ発信なのか気になるもので、
“今”の可愛い基準は、そもそも誰が決めたのだろうか。
服コん中じゃ下流
そう、いくら甘採点をしたところで、いくら持ち上げたところで、
美女の溢れた教室で半年ばかり過ごした近藤洋平は、
取り分け特徴のない結衣を見ても、これといった感想を持たないだろう。
むなしくなるばかりだ。
静かに授業ストライキ中の結衣は、唇を突き出してふて腐れた。
そんな彼女のプリクラ手帳に、ばっちりと先生の視線が注がれたが、
セクハラが叫ばれる昨今、
男性教員は女子生徒には甘くなりがちなマドカ高校の為、
迷惑にならない隠れ問題児の結衣は見て見ぬふりをされた次第である。
だから女子は得だと男子がやたらとブータレるが、
女子から言わせてもらえば女性教員は男子に随分と甘いので、結局お互い様だと反論したい。
そんな平和な教室には、相変わらず約一名分の文字を書く音が足りないでいた。
欠員は廊下側一番後ろの髪が長い女子生徒、ただ一人。



