揺らぐ幻影


「えっと。初めましてマル、近藤ですマル、全然メール大丈夫、でオッケーの親指の絵文字、

………だってー! うわぁ、絵文字使うんだー、あー……なんて返そうどうしよう? どうしよう! うわぁーー凄いっ、凄くない私?!」


唇が震えて上手く話せない。
にやにやしてしまうし、世界中の人に幕ノ内弁当をおごりたいくらい結衣は幸せだ。

好きな人とメールのやりとりをするなんて、夢みたいな話で、

頑張れば何でも叶うのだという小学生にありがちなスローガンを素直に信じたくなる。

恋をすると無垢になるのだろうか。とりあえず平常心ではいられない。


  嫌がられてない! 良かった

  良かった良かった良かった……

  メール、きた!

興奮状態の割に、保護しなきゃと冷静にカギマークを付ける。

携帯電話の保護メールを発案した人は、きっと片思いのベテランだと結衣は勝手に思った。

健気な気持ちを同時に保存できるなんて、ピュア過ぎるではないか。


一年後に読んだ時、隣に近藤が居てくれたなら――自分は世界一幸せ者だと胸を張って言えるのだろう。

きっと他人から見たら駄文かもしれないが、

初恋最中の結衣にとっては大事な一通、恋文となるミラクル現象に引くのはナンセンスだ。


もちろん恋を知る前まではメールを保存する人を、なんて重たいんだと引いていたし、

そもそもたかが文章を読み返す意味さえ分からなかった。

しかしながら、前言撤回し、今から彼女たちに謝罪して回りたい気持ちになった。


『うんー、返事ね……ありがとう音符、それと辞書もありがとう星星星、とか? 社交辞令過ぎる?』

「うんー微妙。インパクトがない。てかハテナ文章要るよね、なんて打とう?」

『ハテナ文章は当たり前。てかあんた態度変わりすぎっ、ダメ出しとか、あはは』


  ……、!

また近藤のせいだ。
さっきまではウザウジ卑屈マックスだったのに、

今度は偉そうで気合いの入った別人が現れたのだから、

自分の中には、一体あとどれくらいの登場人物が居て、彼はどんな自分を造り出すのだろうか。


そんな風に、一見ロマンチックなようで、尚且つ意味不明なことを結衣はイタい女子を代表し考えていた。