揺らぐ幻影


とりあえず落ち着けば分かる。
たかがメールにオーバーリアクションをしすぎだと、

大根役者の古典劇かと、いつもの結衣なら自分で自分につっこみそうだ。

しかし、自分のことが分からないのが恋の病であるのだけれど、

友人に諭され、ようやく状況を把握しはじめる。


  そっか、

  引くとか以前に他人だもん、ね

  フーイズシー状態なんだし引く訳ない、の、かな

  大丈夫、かな


「はあ、なんか、自分にドン引き。パニックガールすぎるじゃんね……たかがメール、だし。あはは。ダイレクトメールよりマシだよねー……って! うわっ、愛美!! きた、きちゃった! メール!!」


開きっぱなしで省電力モードの暗くなっていた画面に突如出現した《近藤洋平》の名前に、心臓が壊れた。


夜を遮断した明るい部屋に、

着うたダウンロードが百五十万こえたとか言う ケータイ世代に人気の流行り歌が響く。


  、無視されなかった

  良かった、きた!

  本当に。

  良かった、嘘みたい


しばらく安い感動を噛みしめていると、打ち込みの電子っぽい音が手の平から消えた。


『なんてなんて? てか二十分ちょいで返事きてんじゃん、早いじゃん。ほんと大袈裟』

「だってー…………。てかさ、怖いよ、開けたくないヤダ」


ここ最近の空想は甘いばかりだったが、実際に絡むとなれば正反対な負の予感ばかりがする。

うざいとか迷惑だとか、一言だけ返ってくるのではと、嫌な考えばかりが浮かぶし、あながち間違いでもなさそうだ。


そんな訳で、なかなか未読画面を開けないでいると、早く読まないとキレるからと催促をされた。

恋の病に侵された乙女心には、どすの効いた友人の叱咤は無効なよう。


  メール……

  うわあ、ありえないメールするとか!

  どうしよ


わたわたして不安で、どうしようもなく放心して、自分で自分の操縦方法を忘れてしまう。

しかし、愛美に呆れられて電話を切られると終わりなので、

深呼吸をしてメールを開くボタンを押した。



「読むよ、?」

過剰な演技派女優になれそうなくらい、声の一音一音に結衣は感情を込めていた。