揺らぐ幻影


『あほくさ、さっさとしなって、電話切るよ? 素敵に見捨てるからね』


叱咤する声は脅しまじりで本当に次で見限られるのが伝わった。

無理だ。愛美と電話しているから頑張れるだけで、一人なら何もできない。

せいぜいアドレスを眺めるくらいで、結衣はアドバイスをしてもらえないと意気地無しになる。


  好きだもん!

気合いは自分で作るしか道がないのが、今の彼女のポジションなので泣き言は似合わない。


「送信した! したから」

明るい小窓には送信完了という魔法の呪文があらわれた。

異常なまでにドキドキする心臓はどうしたらいい。

「返事来るかな」
『大丈夫だって』
「来なかったら?」
『来るから』
「今何時」
『十時三分』
「もう七分経った」
『たかが七分じゃん』
「終りだシカトだ」

といった短文の会話が七分間ひたすら繰り広げられている。

初メールに喜びいっぱいになりたいのだけれど、子機を通す声はどんよりとしていた。


  どうしよ、絵文字きもいって思われたかも

  ああ、スルーされたら私どうなるの、気まずいってば

うじうじした思考に負けそうになる。


――なんだって、たかがメールに振り回されなければらないのだろうか。


世の中のモテ子は身勝手気ままに男を翻弄させるモノらしい。

しかし、結衣は携帯電話に躍らされているなんて、なんだか現代っ子すぎて情けなくなった。


そして、彼女はちっとも恋愛慣れしていないのだと痛感した。


小悪魔スキルは天性なのだろうか。
あるいは努力をして身につけるのだろうか。

どちらにせよ、電子端末に一喜一憂する結衣に、裏技なんて披露する機会はなさそうだ。

学校の授業――算数では恋愛における駆け引きを、国語では気になる人の心理読解を、理科では恋心分析を、社会では世の中の事情を、

そんなことを習った方が、人生に役立つような気がしたようなしないような。


とにかく、片思いが始まったこれからは、学ぶことが多そうだ。

きっちりと平均点はたたき出したいのだが、どうなることやら先に期待できないのが三流イズムだ。