揺らぐ幻影


『頑張れ! 押せ、大丈夫、田上アウト〜ボタンじゃないから』

「ぎゃーやだ、罰ゲーム? 怖い怖いアタシなかなかチキンだしー、ビンタだったらやだよ」

『いやいや序論も序論じゃん? さっさと押しなって、ゼーットが来るよ?』


ああだこうだと喚き、文章が完成してから随分と時間が経っていく。

  返事来なかったら……

  コイツきもいって思われたら?

たかがメールに臆病な人格が飛び出して、なかなか送信ボタンまで指が進まない。


クラスメートの男子になら適当にやりとりができるのに、好きな人だと恐ろしくて堪らない。

液晶の光りがお布団に馴染み色を塗る。


「まなみー、どうしよ汗がっ変態な汗が」

『鼻息聞こえないから大丈夫! ほら、押せ! 今十時でしょ、あんま遅いと失礼じゃん』

尤もらしい台詞に、確かに十一時を回ってもどうしようどうしようとしている訳にはいかないと気付く。

それに、いい加減この終わりが見えないぐだぐだ具合に自分でも苛々してきてしまった。

優柔不断は、しつこいだけで何もプラス要素を生産しやしないのだ。


『ほら押せよ! じゅう、きゅう、はち、なな……』

急かすように愛美のカウントダウンが始まって――

  ご、よん、さん、に、……

一緒に無言で数えれば、マイナスいち、マイナスにと増やしてしまう。

情けなくなってきても、「無理、押せない、チキンだ私」と喚くことしかできない。

足踏みばかりして時間を無駄にしていると焦り、余計に緊張して躓いてしまうのが結衣だ。


  だめだ、怖いよ……

  嫌がられたら地味につらい

後悔しないためには逃げる道もあり、それは稀に賢い選択になる場合もある。

そう、近藤から必ず返事が来るとは限らないのだ。


メールをして好きになってもらえるか、メールをすることで拒まれるか、どちらになるか分からない。

だったら、今から頑張るにあたり、わざわざ嫌われたくないと思ってしまう訳だ。


意気地無しの彼女は、送信ボタンを押すという単純な作業が怖くてたまらない。

自分で自分を馬鹿だとしか見れない。