「なんて打とーか」
最近は携帯電話がなんだって欲張りに役目を果たすので、
固定電話には勧誘電話くらいしか用がなくなっていた。
しかしメール作成をしながら、同時に話を実況できるので、
子機は非常に役に立つのだと生まれて初めて偉大さを知った。
そう、何の知識もない結衣一人で好きな人にメールをするなんて不可能だから友人が必要だった。
『お初です、隣のクラスの田上結衣です、今メールしても平気ですか〜で良くない? ザ定型文』
「堅くない? おもんないサラリーマンみたい」
『馴れ馴れしいより良いって』
ドキドキして息苦しい、たかがメールでなぜこんなにもときめくのか。
そもそも彼女はメール命の携帯っ子タイプではないと言うのに。
好きな人は自分の中でひどく上の上の世界に居て、次元の違う人のようで、
気軽に声をかけられない人で、――高い身分に位置している気がした。
だからなのか、ファーストセッションにはなかなか勇気が出ない。
「打つよ、打つ。初めましてニコチャン顔、田上結衣ですマル、で、ひとまず改行して……、で、大塚くんから教えてもらったよ。
今メールしても良いですかハテナハテナ目閉じた顔。どう?」
丁寧に教えてくれる愛美と真剣に聞いて挑戦する結衣。
たかがメール。こんなことは馬鹿らしいと頭の中の自分は言っていて、
一方で頑張ってと心の中の自分が言っていて、なぜか結衣の思想には二人の自分がいる。
近藤を思えば真面目だったりポジティブだったり卑屈だったり色んな人格が現れて、
体は一つなのだから、恋をするとたくさんのキャラクター相手に疲れてしまう。
でもそれは決して嫌な疲労感ではない。
むしろ心地良いような――『恋愛してます』と、実感できているかのような――
とにかく、近藤に纏わることならどんなことでも幸福でしかない結衣だ。
そして、そんな自分に引いている自分も居たりなんかして、
つくづく片思いの乙女心はややこしいのだと呆れてしまったし、
逆に誇らしくも思えた。



