揺らぐ幻影


「携帯っ、開くよ?」

『頑張れ田上!』

女友達の強みは何と言っても無遠慮にリアルタイムで図々しく連絡をとれることだ。



《アドレス教えてもいいって
↓近藤洋平↓
/=+;-|]゚+&@%\$.ne.jp》


点灯している彼のメールアドレスが目に入った瞬間、

お化け屋敷の客寄せサクラ悲鳴の如く、結衣は盛大に叫んでしまった。

「うわあー大塚からきたぁメアド! わあーーうわ! メアド!!」

『うっそー!! なら彼女探してるってことじゃん!! 彼女いらないならアド教えるん渋るでしょ!!』


同じようなテンションでも、電波越しに正論を唱える愛美は少々冷静だった。

彼女のありがたい言葉に拍車をかけられ、

ますます「うわあっどーしよっどうしよう」と、結衣は歓喜を上回った動揺を露わにした。


このような場合、確かに やこしくなるので、恋人が欲しくないなら、

人づてだとしても異性にメールアドレスは教えないだろうことから、

つまり、近藤の中でガールフレンドが不必要な訳ではない可能性が極めて高いと勝手に判断した。


  うわあー嬉しくて吐きそ


とりあえず大塚に《任務ご苦労様です》と、返信し大きく息をつく。

おもいっきり深呼吸をし自分を奮い立たせた。


――いよいよ、だ。

薄いピンク色をした携帯電話に近藤洋平という名前と、アドレスが入力されてしまった。


  ……ぽこりん、

なんとなく世間からケータイ世代と呼ばれるのが好ましくはないので、

結衣は携帯電話をコミュニケーションツールとして、あまり用いないように配慮している。

ブログやホームページの登録もしたことがないし滅多に見ないという、

クラスメートの平成生まれと比べては、かなり稀なアナログ人間タイプだ。


また、無断でクラスメートに一緒に写ったプリクラを公開されていて、

内心舌打ちしたくなるも注意をしないのは、結衣がことなかれ主義のタイプだからだ。


携帯電話を使いながら、本当は違和感を持っている――でも使う。
ややこしい矛盾ガールの自覚がある結衣だ。