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ピンク色のワンピースを着たかった。
リボンやフリルがあしらわれて可愛い可愛いお姫様になれるドレスなら、
片手で年齢を数えられる頃は迷わず本能のままに選んでいた。
けれど、ある時から可憐なものは避けるようになっていて、
本当は着たいのに、ふわふわした服はぶりっ子だと思われるかもしれないからと、
周りの目を気にして遠ざけるようになっていた。
親だけのお姫様だった頃から歳を重ね――きっと結婚式で好きな人のお姫様になれる時、
ふわふわドレスを女の子は選ぶ最後だ。
薄い水色の壁紙に四方を囲まれた六畳の部屋は、
壁が薄くて、隣の部屋に居る姉のたいてい相手は婚約者の長電話の聞こえるし、
居間から届くTVの音洩れもひどい。
欠陥住宅ではないのかと疑うも、ローンで購入した父親に悪いので、疑惑は疑惑のままにしている結衣だ。
怖いよ、無理ー
ベッドの上で何度も身体を転がしていた。
暴れ過ぎてモコモコしたルームソックスから踵が覗く。
『煩い』という怒号は結衣の姉。
彼女は社会人の二十八歳で離れているせいなのか、あまり仲が良いとは言えない。
普通は妹というだけで姉に何かしら無条件に可愛がられ、服を交換したり買い物に出かけたりするのだろうが、
あいにく結衣の姉は妹の鈍臭さというか、行動するまでにいちいち時間がかかる性格が合わないようで、
トモダチ姉妹とは呼べないし、当然恋バナなんてしたためしがなかった。
しかし、姉は妹の恋愛レベルがゼロのことを知っているし、
中学時代に告白されたことがあることも知っているからなんだか腑に落ちない。
あー、やだなあー
怖い怖い恐怖、やだなぁ
まるで怪談話の語り手のよう、恋に臆病になる。
そう、片思いはなぜか緊張と不安で勝手に引っ込み思案になってしまう。
けれど、いつまでも嫌がっていてもらちがあかないので、
頭から布団を被り、恐る恐る随分と前に受信していた大塚からのメールを結衣は開いた。



