揺らぐ幻影


E組の席替えはくじ引きで行われる。

本当は廊下側の一番前の席が結衣だったのだが、

一番後ろの子が彼氏と隣になりたいからと相談されたので、喜んでトレードした。

最後尾は気楽だから好きだ。


  彼氏彼女、か

いつか近藤と恋人になれたなら、愛美カップルや市井カップルとWデートをしてみたいと思う。

まだ告白すらしていないのに、

付き合ってからどんな風に時間を重ねるかの空想は止まらない。


例えば放課後、結衣の自転車に近藤が乗って、自分は横座りで後ろに座る。

車やバイクの喧騒でなかなか話し声が聞こえないから、叫ぶようにして話したり、

坂道は降りて二人歩いたり、疲れたと言う近藤に代わり結衣が漕いだりもいい。


また、授業中にメールで決めた場所で待ち合わせをして食堂でお昼を食べたり、

たまには授業をサボるのだっていい、空き教室の黒板に落書きをするのも捨て難い。


  楽しんだろーな……

  中学の友達に紹介されたり?


声にはしない脳内創作話がもし音を作るなら、クラス中の笑い者になるだろう。

恐らく妄想を語って許されるのは、

幼い子供と王子様を待つ夢みがちな乙女だけなのかもしれない。

多少、可愛い部類だと自負しようが、さすがにお姫様役には立候補できないけれど。


遥か昔に授業が始まった証拠として、黒板には数学に用いる文字が連なっている。

もちろんくるんくるんに髪の毛を巻いている女子生徒が、シャープペンシルを掴むことはない。

けれども先生と同じ記号を使用して、しっかり頭の中でカロリー計算と体重のプラスマイナスを考えていた。


恋をすると、痩せたがるのはなぜなのだろうか。

付け足しておこう。
近藤の趣味がグラマラスな女性ではありませんように、と。

可愛いグラビアアイドルの写真を見ていませんように、と。


成長期なのに背ばかり伸びて胸元は淋しいことが、ちょっとコンプレックスなのは秘密にしておこう。

例えばの話、自分の顔やスタイル、性格や声、すべてを好きな人の都合でカスタマイズできたなら、

二人は問題なく付き合っているのだろうか。

結衣にはよく分からなかった。