揺らぐ幻影


意識していない人に接しやすい心理は、他人からすれば分かりづらい。

案の定、近藤は結衣が自分を市井に対するクッションにしているのだろうと、

数歩下がり「先に戻るわ」と言った。


結衣は分からなかったが、彼は気を遣うように市井に目配せをしていた。

無理もないだろう、彼の友人は学年を代表するイケメンなので、

当然出会いの踏み台として利用されることに慣れているのだろう。


  あーー近藤くん! 行かないでよ、

  今から話かけたかったのに……

大好きな近藤が居なければ意味がないではないか。

何の感情もない市井と、呑気にお喋りがしたい訳ではない。

このまま里緒菜たちの元へ行こうかと考えたが、ふと思い出した。

友人周りから攻めるという作戦会議を。


よくよく熟考しなくとも、結衣の場合、近藤の片割れ・市井に気に入られることは重要だ。

もしも二人が男女の垣根なく大親友となったとして、

話の流れで『あの子いい子だね』と、市井が近藤を洗脳してくれる可能性がない訳ではない。


つまり、王子様と仲良くなると結衣にはメリットがあるのだ。

むしろ好都合なことしかない、間接的にアピールをするには親しくしておくべきだ。

十代の男の子は周り、特に仲間内の評判がいい女の子に惹かれるものだと、

三人の中で一番恋愛経験のある愛美が言っていたため、

平民少女はこれを機に高貴なお方と仲良くなろうと決めた。


「すっごい美人って聞いたよ、お姉ちゃん。あはは」

身内を褒められたら誰だって嬉しいものだろうから笑顔で讃えた。

いつも彼は優しく笑ってくれるので、会話は弾むと予想していたのだけれど、勘違いだったみたいだ。


「……うーん? その噂アテにならないよ、普通に不細工、引くよ? あはは」と、

思いの外冷たく言い放たれてしまったのだ。

声色だけではなく、表情もどこかぎこちないように感じられたことから、

もしかしたら低血圧なのかもしれないと違う理由なら凹むため、都合よく判断し、

結局すぐに手を振ると、逃げるようにして駆け足で母の元へ向かった。