揺らぐ幻影


「お嬢ちゃんは何?」と見知らぬ先輩に言われ、「幕ノ内です」と答えれば、

わざと男子生徒らがジェントルぶって手助けをしてくれるのだ。

これぞ高校生あるある。
思春期のノリは胡散臭い偽善に溢れている。

外見に自信がある男子は、恐らくかっこいいアピールをちゃらく演じることで自身に酔っている。


そういう場面に出くわした時の女の子は、営業スマイルを向ければ完璧だ。

「先輩優しいですねー、ありがとうございます」

簡単に手に入ったお弁当を抱え、感謝をしない結衣は友人の元へと向かうおうと爪先を回した。


――その時、


「あ!」

生徒でごった返した中に、愛しの未来の彼氏を見つけた。

そして続けざまにラッキーチャンス、結衣の声に反射的に振り向いた近藤と必然的に目が合った。


だったら、彼女がすることはただ一つ。
雑魚キャラに作った愛想笑いよりも気持ちを込めた笑顔を作ればいい。


唇を動かして最上級の顔面を向けた。

きっとベタにドキっとしてくれるはずだ。

しかし、彼は声の主から曖昧に目を逸らして――背中が残る。

どうでもいいその他の人たちに視界を遮られていく。


  ……なに、

  笑って、くれないんだ

もう結衣の視線と近藤の視線が絡み合うことはない。

せっかくの貴重な機会を上手く生かす方法を、誰か彼女に教えてあげたらいいのに、

残念なことに、そんな優しい救世主は現れないのが現実だ。


偶然奇遇作戦もまだ顔見知りなだけで、それは他人に限りなく等しい。


単純な結衣は凹みそうになる。

恋人が居ないとはいえ、こんな風に自分の存在が眼中にないのなら話にならないではないか。


赤の他人なら分かる。
けれど、少しは関係を持ったではないか。

大丈夫と言ってくれて、辞書を貸してくれて、顔ぐらいは覚えてくれたはずで――

だからせめて、ぎこちなくでも微笑むくらい今は許容範囲なはずで――


けれど会釈すらされなかった。

見て見ぬふりをするように目線を外されるなんてあんまりだ。手応えがない。


  ……もう嫌だ

  もろスルー、じゃんか