揺らぐ幻影


『うっそほんとー? やったじゃん、ぽこりんフリーかよ!! おめで――「どしよー死んじゃう幸せ不謹慎に死ぬ!! 嬉しんだけど!」

嬉しくて嬉し過ぎて、嬉しいのを通り越し涙が出そうだ。

彼女が居ないのなら、彼女になれる可能性がゼロな訳ではない。希望がある。

これ以上幸せなことは経験したことがないくらい幸せだ。


『ゾンビ生きてるから、良かったね!! 良かっ――「あ、私バイト休憩終わる、あ〜、どうしよ嬉しいよ、死去なんですけどー」

有頂天になると自分のことだらけになる。

人間関係を唱える場合、お喋りさんより聞き上手さんになる方が実は難しい。

人は話すと満足する節があり、相手に心地良くお喋りせる相槌を打つのは、なかなか腕が必要なものだ。

二十歳を過ぎた大人でも見当たらない。


それを絶妙な間合いに『頑張れ!』と挟む愛美は、社会的スキルが高いと言えるだろう。


立派な彼女に甘え、「ありがと、じゃあまたメールする! 里緒菜にも」と、結衣は勢いよく通話終了ボタンを押した。


続けて大塚にはお礼のメールをし、ありがちに明日のお昼を奢る約束をした。

《平民おやすみ》

《おやすみ》

こちらの冗談をスルーする彼は、彼らしいなと思った。

淡々としたメールを済ませると、こぼれた烏龍茶の始末をする。


  彼女居ないんだ……

  彼女になれる可能性あるもん

付き合ったら、彼女になったら、……どうしようどうしようと明るい悩みが尽きない。

彼女が居ないのなら、自分が彼女になりたい――結衣は願うばかりだ。

そう、近藤にお似合いの女の子になりたい。



「いらっしゃいませー」

お約束は裏切らない、店内には少女の元気いっぱいな声が響いていた。


そんなハッピーな夜はサービスとして、ポップに流れ星が演出されるべきなのだけれど、

乙女といえど一般人。
出窓に肘を付けて夜景を楽しまないし、まして冬なのだ、お星様とはお喋りをしないのだけれど。


絶好調な結衣はただ明日を待つために、一生懸命に瞼を瞑ったのだった。


…‥