揺らぐ幻影


学校に諦めて全てをかけたアルバイト先でも出会いがなく、それが結局この様だ。

約一年経てば期待なんかしていなかったマドカ高校で好きな人を見つけだすなんて、

正に人生何があるか分からないと言える。


「おねーさん、オススメは?」

――といった具合に、臭いことをぼんやりと考えつつ、

ドリンクバー用のお砂糖やストローを補充していると、間延びした声がかかった。


「はいー?、煮込みオムライス? ですかね。何気に人気ですよー美味しいですよー」

「おねーさん食べさせてくれんの? あはは」

たまにお酒の入ったようなテンションで、居酒屋のノリを持ち込んでくるお客さんが居る。


そういう時は絡まれる前にヘラヘラ笑い、言葉の最後に四回瞬きして頷くと上手くあしらえることを、

結衣はバイト歴八ヶ月の内に独自で学び、割と早めに習得していた。


「おねーさん彼氏居るんっすかー? かわいーね、女子高生?」

「看板娘っすねぇ、よし、お兄さんとメアド交換しよっか?」

「褒めたって割引しませんよー、私三十歳なのに若いからよく女子高生って言われるんですよーあはは。オムライスでよろしいですか?」


どの角度から見られても完璧なレースクイーン級の微笑みを向けた。

あくまで自称、結衣目線で最高な愛想笑いを作ってあげた。

そう、既にハンディのオムライスボタンを押す準備をしている。


例えばナンパをされたなら、固まっちゃう女子が居るらしく、そんなピンチを運命の人が男らしく助ける――

なんて、なかなか不思議なエピソードだと結衣は思う。

なぜなら、最近のナンパはあくまでノリ、社交辞令の延長で、悪質かつしつこい人なんて稀なのだ。

なので、そんなシーンがドラマで流れると無性にツッコミたくなる自分は、

乙女心が足りないのかとたまに不安になる彼女だ。


それでも、やはりもう高校生なのだから、そういう部分は日常生活を送れば必然的に対処できて普通なのではと、

悪役に絡まれて発展する非現実的なロマンスを否定しつつも、

まあ、幸せそうですことと羨ましく思ったりなんかする。