揺らぐ幻影

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早起きねと、言われた。

最近妙に寝起きが良い娘を持つ母親は、我が子が恋をしているのだと朧げに理解している。

お風呂の時間が異様に長いことと、寝ぼすけが早起きをすることの二点が揃えば、尚更分かりやすいせいだろうが、

結衣はバレている自覚がなかった。


決まった時間に流れる報道かバラエティーか境界線が謎な朝番組の天気予報では、

初雪かもしれないと珍しいお知らせをしていた。

結衣の暮らしている地域では雪など滅多に見られないし、仮に降ったとしてもまず積もらない。


  雪ー、みぞれになるかな……

  雪女。

  湿気で髪がとれちゃうよ


肝心な天気だって交通手段の不安ではなく、恋の不安なのだから、

日本の未来を大人が危惧するのは納得できないと思う若者代表だけれど、

彼女たちの思考を探れば、もはや仕方がないことなのかもしれない。


  ……雪降りませんように

付き合っていて彼氏彼女の関係ならば、今日の髪は失敗だと弁解ができたり、今日のメイクは失敗だと言い訳ができたりするが、

あいにく今の結衣と近藤の間柄では不可能で、

見られた一瞬が田上結衣という全てになってしまう。


だから、あるかないか分からないたった一瞬のために可愛くありたいとお化粧を重ねて髪をいじる。


左右反転の自分は可愛いはずだ。

自信をくれる鏡が好きになれたらいいと願う。


《今日は朝イチで挨拶します!》

作戦仲間の二人がまだ眠っているであろう時間に 配慮せずメールを送ってしまったと気付いたのは、

送信完了の四文字が画面に浮かんで三秒経った後だった。


しばらくすると《眠い!》と愛美から、《受信拒否》と里緒菜から、

それぞれらしい内容を貰った。

こういう二人の飾らないところが結衣は好きで、真剣味がない片手間な感じが大好きだ。

だから迷惑メールを送り付けた立場でありながら、自己中な彼女は朝からご機嫌だった。