揺らぐ幻影


「ああーもうダメだ」

「ぽこりんなんて?」

「反応は? リアクション芸人だった?」

一時間前なら満面の笑みで無事生還した少女は、

同じドアから現れておきながら一時間後には悲壮感漂う姿で別人のよう。

こんな時は、余計に友人二人はつまらないセンスで話しかけるのが女子高生のモットーだ。


ちなみに、彼女たちは面白いから笑うのではなく、笑うから面白いのであって、

話術にクオリティーを求めてはならないのが鉄則である。


「奴ありがとって……そんだけ。あっそじゃない? はぁ?、じゃん、なーんも……男ならもっと反応しろよじゃん?」

逆ギレ厄介クレーマーの如く、結衣はF組での出来事を報告した。

予想通りにいかなかったことが腹立たしいったらない。


「半狂乱とか大丈夫?」と愛美が、続けて里緒菜が「会話のキャッチボールは?」と言って、

愛しの人とのメモリーを若干茶化し気味に尋ねてくるため、

結衣も露骨に首を左右に振ってみせた。

このようなオーバーリアクションも女子高生のモットーであり、イタいと判断してはならない。

大袈裟な身振りこそ普通だ。


  もうやだ

おかしい。ほんの数分前は幸せ最上級で天女になれる気分だったのだけれど、

今は真っ逆さまに奈落の底屍状態だ。


  全然、温度差が……

結衣が百度熱を上げるなら近藤は零度で、こちらばかり舞い上がっている状況がたまらなく切ない。

少し彼が戸惑ってくれたり、ホッペを染めてくれたなら、

意識されていると実感できたのだが、彼は彼女に至って普通に対応していた。


  ……全然

  、恋愛対象外じゃん……

女として見られていないなら、こちらが緊張しても全く無意味で――だったらあのドキドキは何だったと言うのだろうか。


あのドキドキさえ無意味だったのだろうか。

徐々に視界が滲んでいく。


開けっ放しのドアからは乾燥した風が入り込み、

暖房の空気と交わり、絶望感をスパイスにE組で不快な程浮遊していた。