揺らぐ幻影


  なんで無反応なの?

  なんで食いついてくんないの?

  駄菓子セレクトとかイジり易いじゃん

言えない言葉を爆発させないよう唇を噛む。

駄々っ子みたいに両手を振って暴れてしまいそうなので、

チェックのスカートの裾を、結衣は力いっぱい握った。


好きな人が持っているお菓子。

これだって今朝、愛美とコンビニでいかに愛くるしさを演出できるかと悩みに悩んだアイテムだ。


……――近藤は分かっているのだろうか。

意味のないことに、どれだけ会議をしたのかを。


棒付きの飴は可愛さを狙い過ぎかもしれない、十円チョコは溶けていたら気まずい、

袋入りの飴一つや十二粒入りのガム一つだと社交辞令過ぎて印象に残らないかもしれない、

そんな風にくだらないことで真剣に悩みに悩んで選んだ品なのだ。


乙女心を汲み取ってくれていないから、彼は簡単にポッケにしまうのだと思う。

パッケージのゆるい恐竜のキャラクターを入口にお喋りをしようとしていた作戦が抹消されてしまったではないか。


  いちご味、可愛くない?

  いちごとか、ぶりっこヤバイし

自分が持っていたドキドキが近藤にも伝染すればいいのにと、願えるだけ結衣は願いまくった。


「ありがとなー」

嫌がってもいないが特別喜んでもいない話し方は、あまりに他人行儀でぎこちなく、自信をなくす。

人事ならば、『そりゃ友達でもないんだから当たり前だよ』と、理解できるのだけれど、

自分のこととなるとそうはいかない。

ネガティブ思考に急降下するウザさが、これまた女子高生らしいではないか。

暖房であたたまった教室が遊園地にあるマイナス何度の世界に早変わりする。


「えっと……、あははっ、うん!、あはは、その、……うん。ありがとう、あは」

外国の方によく言われる日本人特有の媚びへつらう愛想笑いを無駄に振り撒いて、

結衣は勢いよく自分の教室へ戻ってしまった。



だから市井が神妙な顔を向けていたなんて、知らなかった。

――こういう些細な点を見逃すせいで、いつだって詰めが甘いグダグダな展開になるというのに、

まあリアルな世の中は、伏線を拾いそう都合よく物事は進みやしない。