揺らぐ幻影


授業の終わりを知らせるチャイムが鳴り響くと直ぐに、教科書を片す音や椅子を引く音が重なりだし、

数秒前とは打って変わって、ざわついた四角い箱に変化する。


雑誌片手に友人の席に近付く者や、黒板を消さないでと慌てて書き写す者、


――そして、

「あの、ありがと。助かった」

隣の席の人に話しかける少年もいるし、「いーえ、高いよレンタル料三万」と、

貸してあげた電子辞書を返してもらいながら、

大して練りもしなかったクオリティーの低い冗談を交える少女もいる。


数学と英語はテスト前に頭の良い人のノートを厚かましくコピーした方が捗るので、

普段は真面目に書かない主義の結衣は、

いつもより白い面積の少ないノートを得意げに畳んで、席を立った。


ありがちに、「うわっ、ぼったかよ」と、大袈裟に目を見開く大塚に、

結衣はアハハと口先だけで笑いながらドアへと向かう。

早い話が彼に時間をかけたくないとばかりに、足が動いていたようだ。


それにしても、どうして学生という時代はベタなギャグを披露してしまうのか。

お互いつまらないと分かっているのに、言わないと失礼になってしまうような……

例えば目玉焼きに何をかけるかとか、どこからが浮気になるかとか、

腐るくらい聞き飽きたテーマを、一人に対して最低一回は絶対繰り広げないといけない義務があるような感じだ。


つまらない話題だと悟りながらも、いかに笑うかが肝心なんだとノリを楽しむ――そんな自分をあえて演じることが三流高校生イズムであろう。


E組前の廊下にはF組の生徒がちらほらと流れている。

クラスという単位は、時にひどく高い壁となり、恋する子を悩ませてしまう。

  はあ、緊張する、緊張で……あぁ

  足震えるとか小鹿かよ

心の声が音になるなら、片思いの乙女は皆、怒涛の独り言ラッシュになってしまうに違いない。

せいぜい よいしょ・疲れた・寝よっと、くらいが不気味にならない許容範囲の台詞といえよう。


ドキドキする結衣は流れ星に似た電子辞書を握り、もう一度丁寧に深呼吸をした。