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カタカタ…とパソコンのキーボードの音が機械的に聞こえる。早く、この仕事を終わらせねば、旅行先でもゆっくりできない。
隣の夫婦が五月蝿い。少しは静かにできないのか。怒鳴りたい気持ちを抑え、パソコンのディスプレイに目を向ける。
いつも文句を言ってくる妻が今日は何も言ってこない。気を遣ってるのか。いや、そんな気遣いは私の妻にできるはずがない。
「こんな時にも仕事なんて余程忙しいのね。少しは楽しんだら?」
妻が嫌みったらしく呟く。私は聞こえないふりをしてディスプレイを見つめる。
妻は私の態度を察したのか、舌打ちをして再び何も言わなくなった。いや化粧に集中した、と言った方が適切だ。
なぜ私がわざわざこんな旅行ツアーに参加しなければならないのか。家で休んでいた方が効率的だ。
「そろそろ着きますからね~」
運転手の声で、ふと顔が上がる。辺りを見回すと斜め前に座っている少女と目があった。私は何事も無かったように再びパソコンと向き合う。
あぁ、早く帰りたい。
