コツ コツ コツ…

女性ならばよく耳にする、ヒールの音が廊下に響き渡る。

望月 アリア(もちづき ありあ)は親友になって20年目である、福井 カリナの家の前に居た。

チャイムを鳴らし「アリアだよ」と言うとすぐに扉が開いた。

「どうしたの?
アリアが急に来るなんて珍しいじゃない」

ソファーに座るアリアの前に紅茶の入ったティーカップが置かれる。

「だって明後日、結婚でしょ?
独身最後に話でもしないかと思って」

カリナは幸せそうにニコニコしながらそうね、と答えた。

「でも、もうすぐ七瀬 カリナになるなんて…
なんだか実感がないわ」

苦い笑いをしながら、カリナは紅茶を口に含んだ。

「羨ましいわ…」

アリアがぼそりと呟く。

「え?」

「だって…」


ドチャッ


「祐司の隣に居るのは私だったはずなのに…」

生々しい音が部屋に響き渡った後、カリナが糸が切れた人形の様に床に落ちた。

「何度…こうして貴女を殺したか…」

アリアは途切れ途切れに息をしているカリナをもう一度殴りつける。

「頭の中でね」

血を流し目を見開きながら死んでいるカリナを横目にアリアはティーカップを流しに置いいた。
もちろん指紋を拭き取ってから。

ティーカップの指紋だけ拭き取りアリアは部屋から出た。

「さよなら、カリナ。」

パタンと扉の閉まる音を背で聞きアリアはニコニコしながら家路に着いた。




カリナの様に幸せの笑みを浮かべながら。