【祐介サイド】


言われてみれば、石川の家の隣には確かに小さな工場らしきものがあった気がする。


「最近、その工場がうまくいってないんです。それで、お恥ずかしい話なんですが、私たち夫婦は毎日ケンカ。最初は小さな声だったんです。それが、お互い、抑えが効かなくなってだんだん大きな声に」


「はい」


「愛花と、もうひとり娘がいるんです。心葉という小学校3年生の愛花の妹なんですけど。先生も会われたかも知れませんが」


石川の母親は、ぽつぽつと話しだした。


「私たちがケンカをしてる間に、愛花は心葉を外に連れ出してたらしいんです。多分、ケンカの声を聞きたくなくて」


「じゃあ、あのとき僕がふたりを見たのは」


「多分、そうだと思います。でも私たち、気付かなかったんです。ふたりが出かけてることに」


「そうなんですか?」


「はい。出てくときも、ケンカ。ふたりが帰ったときも、ケンカでしたから」


「そうですか……」


「一昨日の夜、初めて気がついたんです。それで、帰ってきた愛花を問いつめたんです。今までどこ行ってたのって。心配するでしょって」


「はい」


「そのとき愛花に言われました。お母さんが心配してるのは、お金のことだけだって。私たちがどうして外に出て行くかわからないくせにって」