心~保健室の先生と私~【野いちご文庫版】

「愛花は、話したんですか?」


「いえ、何も答えてはくれませんでした」


「そうですか」


「それから今日、いえ、正確には昨日ですが、熱があるから家に帰れと言ったんですが……」


「帰りたがらなかったんですか?」


「はい」


「そうですか……」


「それで、愛花さんをここに連れて来た理由ですが」


「はい」


俺の話を聞く母親の表情は、どんどん暗くなっていった。


「私が働いてる店の前をちょうど愛花さんが通ったんです。たまたま私が外にいたとき」


「それで」


「私がこんなことを言うのも、何なんですが。帰りなさいと言いました」


「はい」


「愛花さんは帰るって言いました。それで、私に背を向けたんです。そのとき、立ちくらみか何かを起こしたみたいで、その場にしゃがみ込んでしまって」