心~保健室の先生と私~【野いちご文庫版】

俺はふたりがけの椅子を指さした。


「はい」


そこは病室に続く廊下らしく、今は外来の明かりが少し届くくらいで、暗かった。


「すみません、お酒くさくて」


「いえ」


「愛花さんが家を出てきた理由を知りたいんですが……」


俺はそう切り出した。


「それが、多分あのことだと思うんですけど」


「話してもらえますか?」


「あの、それが……」


石川の母親が、一瞬ためらうような顔になる。


「私が最初に話したら、話してもらえますか?」


俺は交換条件に出た。


「えっ? ……はい」


母親は戸惑った顔のままうなずいた。