心~保健室の先生と私~【野いちご文庫版】

「覚えてるよ。あわてて出てった」


「あの日、愛花が苦しんでたことが初めてわかりました」


いつの間にか先生は、私のことを愛花と呼び捨てで呼んでいた。


「そうか」


「それからご両親の離婚が決まって……」


「私、すごくつらかった。どうしたらいいのかわからなくなって、ただ泣くことしかできなかった」


「泣いてる愛花を見るのはつらかったです。だから、守ってあげたいって思いました」


「私、自分のこと強いって思ってた。ひとりでつらいことは乗り越えられるって。でも、ダメだった。結局は、先生を頼ってたんだ」


「愛花」


私の話を聞いて、お父さんが表情を暗くする。


「でも頼ってよかったって思ってる。先生と、付き合えたから」


「そうか。ごめんな、愛花。いっぱいつらい思いさせてたな」


「謝らないで、お父さん。謝ってもらうために、この話したんじゃない。お父さんに、先生のことわかってほしくて話したの」


「うん」


「先生は、人のつらさがわかる優しい人。だから、好きになったの」