心~保健室の先生と私~【野いちご文庫版】

俺の中に、いまだに明里がいるのは事実。明里との思い出の品もまだいっぱいある。


この写真も、ケータイにつけてる色違いのストラップも、お葬式の後にもらった手紙も。全部、捨てられない。


捨てたら、明里と過ごした日々が全部消えてしまいそうで、なくなってしまいそうで、ウソになってしまいそうで。
 

それでも、愛花を好きって気持ちは変わらない。大切なんだ、愛花が。


でも、こんな風に俺が思っていると愛花が知ったら、どう思うだろうか。


あきれるだろうか。それとも、嫌われるかな。


「あー、そうか」


愛花が俺に「この水族館、来たことある?」って聞いたのは、ケータイを拾ったときだった。


きっとこのストラップを見たんだろう。ブルーとピンクが一緒になって初めてひとつになるこの片割れのストラップを……。


「好き」


そうつぶやくように言った愛花に、俺は答えられなかった。


愛花のことは好き。だけど……、明里も忘れられない。


愛花のことを好きだって確信してるのに、うまく言葉が出てこなかったんだ。


「愛花……」


俺の中途半端な気持ちのせいで、愛花は、また人を信用できなくなってはいないだろうか? 


好きだ、愛花。でも、もう少し時間をくれ。明里を忘れる時間を……。