「ごめんね、先生。仕事の後に」


別に謝ることじゃないのに、愛花はいつも最後にごめんね、と言う。


むしろ俺は、こうやって愛花の声が聞けて嬉しいと思っているのに……。


表情は見えないけど、声の様子で愛花を知ることができるから。


「いいよ。明日も電話しろな」


「うん」


「待ってるから」


「うん」


「おやすみ、愛花」


「おやすみ、先生」


俺は電話を切った。


「つらいよな」


今まで愛花とつながっていたケータイを見て、ホッと息を吐いた。


身近にいた人間が、急にいなくなる。寂しいし、泣きたくなるよな。


ベッドの中で、愛花が泣いていなければいい。


そう思いながら、俺もベッドに潜り込んだ。