「狂ったら、元には戻らないの?」


「それは……」


「はいそうですかって、別れたかったら別れてくださいって。私、そんなこと言えないよ」


つーっと、石川の頬に涙が流れた。


「先生、私まだ子供なの。そんなに簡単に、離婚なんて認められない」


「石川」


「ワガママ? 私は親を、縛りつけてる?」


「ワガママなんかじゃない」


「ほんとに?」


「ああ」


石川が目に置いていた腕を下ろす。


その目は、赤くうるんでいた。


「泣きな。俺がそばにいてやるから」


石川の手を握った。それから、俺は石川に背を向けた。


「ありがと、先生」


やがて、石川の静かな泣き声が聞こえてきた。


握った手から、つらさが伝わってくるようだった。


「先生。私もケータイ番号、教えてあげる」


「ありがと」


「かけてきても、いいよ」


「ああ。かけるよ」