――【HEART】――

｢アリスちゃん、酔って来た？｣

浩介くんがあたしの頬に触れてそう訪ねる。
あたしはちょっぴり力を抜いて、わざとらしく肩にもたれかかってみせた。

｢やべー｣

冗談交じりでそう言って笑うと、浩介くんが耳元で囁いた。
“隣の部屋行こう"



｢んっ…｣

首筋に唇を這われて、口から甘い吐息が漏れる。
スカートの裾からほんの少しだけ太ももを触れられて、小さな快感に体が疼いた。

誰とでも寝るわけじゃないけれど、たまにこういう事をする。
一人になりたくない時、一番安易な方法は、男に触れてもらう事だもの。

彼の手がブラジャーのホックを外したところで、がちゃりとドアが開いた。


｢お取り込み中わりいけど。
浩介、電話｣
｢あ、やべっ…｣

慌てて電話を受け取った浩介くんの表情に、本命か、と笑ってしまう。
彼女から電話が掛かってきた時、男はみんなああいうリアクションを取る。
みんな同じ。

首をくすめたあたしに、現実に引き戻した張本人がふっと笑った。

｢お前変なやつだな｣


ねえ思えば、これが最初の会話だったのかもしれない。
あなたはいつも不器用なやり方で、あたしを守ってくれました。