全速力で
公園のそばまで来たとき、
男の子は遠くに
二つの人影を見つけた。

人影はこちらに気づいて
何か話している。

男の子は一瞬戸惑った。

そしてゆっくりと
人影に近づいていく。

それはお父さんとお母さんだった。

さっきまで
取り憑いていた恐怖が
一転して安堵へと変わり、
心の底から
喜びが込み上げてきた。

泣きそうになったけれど、
照れくさいので
いかにも迷子になったのは
自分ではないかのように装った。

ふいに、
家の台所から持ち出してきた
右手の包丁を後ろに隠す。

夜中に迷子になって、
男の子は
本当に恐ろしい想いをした。

なのに、
この親ときたら案外冷静で、
男の子は何だか
狐につままれたような気持ちだった。

どうしてあの状況で
自分たちがはぐれてしまったのか
男の子にはやっぱり
不思議でならなかったけれど、
あえてそのことを
二人に問いつめることはしなかった。

今はこの瞬間から離れたくはない、
そんな想いでいっぱいだった。

男の子はまだ
右手に握ったままの包丁を、
さりげなく服の中に隠して、
並んで歩く二人の間に入る。

そして二人の手を
両手にギュッと握りしめながら
家路へと向かった。

男の子は怪しい連中が
家に入ってきたことを考えていたけれど、
それを言葉にするのが恐かった。

玄関のところまで来て、
男の子は得意気に
スペアキーを取り出して、
扉の鍵を開けた。

自分が一番に部屋の中へと入って
明かりをつけた。

そして、部屋の空気は硬直する。

そこには、今さっきまで
後ろにいたはずの二人が、
血まみれになって倒れていた。

男の子の右手には
真っ赤に染まった包丁が
しっかりと握られている。

男の子はその戦慄の中、
ただ黙って
その場に立ち尽くしていた・・・・・・。