もう八月だというのに
空気はいやに涼しくて
気味が悪い。

辺りは
真っ暗であるにもかかわらず、
家路の途中に設置された
ゴミ置き場には、
大量のハエが
たかっているのがよく見えた。

(お父さんとお母さんは、
ぼくが車から降りて
寝ぼけている間に、
先に帰ってしまったんだ)

そう信じて
男の子は家に帰ることにした。

いつもなら恐くて気になった
駐車場横の霊園が、
今夜はやけに遠くに見える。

ゴミ置き場には
渦を巻くように
飛び交う大量のハエ、
そこを通りたくはなかったけれど、
もしかすると
今頃二人は自分のことを
心配しているかもしれない。

男の子は全速力で
家まで突っ走った。

そして、
家の玄関に着いたところで、
また強い不安にかられた。

(もし帰っていなかったら
どうしよう・・・・・・)

そっと家の扉を
開けようとしたけれど、
鍵がかかっている。

(家に帰ったら習慣で
鍵をかける。きっと先に
帰っているに違いない)

そう信じたところで、
ふと自分が
スペアキーを持っていることを
思い出した。

普段は、
失くすといけないからと
止められていたのだけれど、
何だか鍵を持っていることが
かっこう良く思えて、
こっそりと
持ち出してきたのだ。

でも、自分が鍵を
持っていることを思い出して
不安はいっそう大きくなる。
家の扉を開けてしまうのが
何だか恐かった。