「鞠子・・・・・・」

銃を手入れしている私の耳に入った透の声に、思わず作業の手を止めた。

透は今日もビルの屋上から、彼の愛した女を探し続けている。私はその背中を眺めながら、銃の手入れをする。

私達の間を、秋の気配を帯びた風がすり抜けていく。季節は人間がいなくても変わっていくことを、当たり前だけど寂しく思った私は、透に声をかけた。

彼は、自分の生まれ故郷の言葉で「世界が終わったんやない。社会が終わっただけなんや」と答えた。風に乗って、『かつて人間だったもの』の声が聞こえる。透がため息をついてふりかえり、

「手伝うわ」

と、私の隣に座った。

私は休むフリをして、彼の作業を見た。すらりとした体躯を丸めて。長い指を銃身に走らせて。

全てが変わってしまった今でも、透は変わらないように思えた。


私は、この地獄と化した世界でただ一人、かすかな幸せを感じていた。