空唄 ~君に贈る愛のうた~

ただ走った。

いつもは何ともない距離が、途方もなく遠く感じた。

むしろ走れば走る程、道が長くなって行く気さえした。


「もっ……むり」


足をとめて、はぁ、はぁと荒い呼吸を繰り返す。

普段あまり運動をしない人間が、全力疾走で走る距離にしては無理がある。

それに加えて今日は8年前と同じような暑い日。

太陽は嫌味な程に輝いていた。

流れる汗が止まらない。


まだ整わない呼吸をしながら、前を見据える。


―目の前の橋を渡って、階段を降りたところにきっと遥はいる。


「……よしっ」


そう思うと、自然と足が前へ踏み出していた。

立ち止まってる時間が、勿体なかった。

一刻もはやく会いたい。


そして、いつもの屈託のない笑顔で


[花音どした?
なんかあったか?]


って、笑いかけてほしい。

こんな不安を吹き飛ばしてしまう、君の笑顔に会いたいの。



橋を渡りきって、階段を2段とばしでかけ降りる。

地面に着地して、いつもの場所に顔を向けるとそこには遥がいた。


けれどあんなに会いたかった、彼の笑顔はそこにはなかった。