彼女の言葉に俺の体は固まった。

確かに菌が行き来するのは嫌だが、だからと言ってキスをしないというのはもっと嫌だ。

恐る恐る彼女に「嘘だろ?」と聞けば彼女はにこりと笑った。

「嘘じゃないって言ったら?」

今、俺の顔は真っ青だろう。

好きな人にキスが出来ないなんて俺には我慢できない。

彼女に触れて、彼女を抱き締めて、彼女にキスをする。

それが、もう出来ないなんて本当に拷問ではないか。

全く動かなくなった俺に彼女は目の前で手を振り「おーい」と声をかけてくる。

俺はその手を掴み彼女を押し倒した。

「どうしたの?」

何食わぬ顔で聞いてくる彼女が可愛らしくて、憎い。

俺は相当彼女に溺れている。

「嘘じゃないなら、無理矢理するだけだ」

そう真剣に言えば彼女は眼を少し見開いたあと、優しい笑みを浮かべた。

その笑顔がとても綺麗で見惚れているといつの間にか彼女の顔が間近にあった。

唇には暖かくて柔らかいものがあたっている。

ゆっくりと離れていく彼女を見ながら俺は「な、んで?」と、とぎれとぎれに言った。