彼女の離れていく手の平を、ペロッと舐めてしまった。

 なんでそんな事をしたのかわからない。

 急に甘いお菓子を取り上げられるような気分になってしまったのは確か。

 あ、しまった、変な事しちゃったなと思って「ごめん」と言おうとした瞬間、彼女の柔らかい唇が僕の上に覆い被さって来て言葉を塞がれた。


 キスされてるっていうのはわかるけど、なんでだろう、僕はドキドキもしないし、お尻がムズムズもしない。

 むしろ彼女の唾が口の周りについてヤダなあなんて思ったりして。


 そりゃあ驚きはしたけど。

 こんなことは初めてだったし。

 そのうち変なスナック菓子の味がして、興奮している彼女の顔に笑いそうになる。

 何してんだよと吹き出しそうで困った。

 舌が入って来た。

 にゅるりと柔らかく温い。

 ぎこちなく動く舌は、少し怖くて気持ち悪い。

 彼女の息がますます上がって耳の中を掻き回してくる。

 彼女の漏らす吐息が大きく波打つにつれて、僕の頭の中はどんどん冷えていった。

 どうしてなんだろう。

 一緒に遊んでいる時はあんなに楽しかったのに。

 ファッション誌のページをめくりながらお喋りしたり、化粧水をたっぷり含んだコットンのいい匂いや、流行りのかわいいシール、プリクラの見せ合いっこもあんなに楽しかったのに。


 どうしてこんなことするんだよ。

 ちっとも楽しくないし、ドキドキしないじゃないか。


 パタパタと足音が階段で鳴り出すと、彼女はぱっと唇を離し自分の唇についたピンクを拭った。

「内緒よ、仁ちゃんがあんなことをするから……」

 上目遣いで囁いてくる。

 いつの間にかさっきの小さな事件の発端が僕になっていた。

「でも、いつでもシタくなったら言って?」

 彼女はニヤッと笑うけど、なんだかそれがとても嫌で。

 たぶん僕はシタくならない。



 少なくともこのスナック菓子の匂いのする彼女とは。