突然の事で何が起こったのか、なんで先生がそんな事をするのかわからない。

 僕の耳が急に熱くなり、唾が下顎の辺りから湧き出てくる。

 先生はその唾まで掬い取って、僕の口の中を行ったり来たりする。

 そしたら変な事が起きて。

 僕の臍の辺りがきゅっと熱くなったり、ムズムズして……その下の所がじわじわと固くなり始めた。

 そんな事は初めてで、僕は慌てた。

 このままされていたらどうなっちゃうのかと思うと、怖くなってきて泣きたくなる。

 おかしな気分だ。

 僕の泣きそうな顔を、先生は変な顔で……こう、笑ってるような泣いているような、そんな顔で見つめていてそれも怖かった。

 先生の指先は魔法の杖みたいに僕の舌をなぞったり、軽くつまんだりする。


「仁君は大きくなったら、すごくカッコ良くなるわよ……」



 耳元でそんな事を囁く。
 くすぐったくて気持ち悪い。

 体が汗ばんできて動けず、時間もやけにゆっくりとしか進まない。

 心臓の音が部屋一杯に広がるような気がしてますます体が固まる。

 急にぱっと指の感触が消えた。

「はい、お終いよ。仁君」


 助手のお姉さんが戻ってくると、先生は急に指を離していつもの顔に戻っていた。

 僕はのろのろとスリッパをひっかけ、黙って診察室を出る。

 心臓と舌の先が微かに震えていて、汗を掻いているみたい。

 ブラインドから漏れる光が、リノリウムの床に反射して光って気持ち悪い。


 その晩、僕は初めて夢精を経験した。

 十一歳の夏だった。