通勤電車は甘く切ない時間

その日の俺は、心ここにあらずで、仕事に身が入らなかった。

そんな俺に、社長が一言…
「郁人。遅刻しないから良いってもんじゃないよ。仕事する気がないんだったら帰れば」

そんな社長に、元は
「ま~ま~こいつも、もう少ししたら、目が覚めてくると思うんで」
一応、フォローしてくれている。

でも、社長の言うとおり、今日の俺は無理だ。

頭の中には、俺を見つめた彼女の眼と、俺の手を取った彼女の手を思い出していっぱいだ。

そこで、俺は社長に
「今日は、本当にすみません。これで帰らせてもらいます。その変わり、来週は毎日出社するので、勘弁してもらえますか?」

「郁人。出来ない約束は、するもんじゃないよ」

と、社長。

元は、俺の言葉に驚いて、言葉も出ないようだ。

そんな二人に俺は、

「大丈夫です。どうしても確かめたいことがあるので、来週は毎日来ます」

社長は
「ふ~ん…じゃあ今日は、もう帰りな」

元は、
「おい!郁人。確かめたいことって何だよ!?」
と、食いついてきたが、俺は、そんな元を無視して、会社を後にした。