知子さんが、お店をやめて

フランスへ旅立つ事となった。

それでお別れ会をすることになり

お店の女の子全員と

本日のお支払いをして頂くお客さんと

韓国料理屋に行き食事をしていた時に

それはいきなり起こった。

上機嫌のお客さんが

何をどう勘違いしたのか

隣にいた私の唇にキスをしたのだ。

そして私は、

その事に本気で怒り、泣いた。

よく知りもしないおっさんのキスを

受け入れるほど落ちぶれた覚えはなく

それを流せるほど大人ではなかった。

涙目になって

お客さんを睨む私の姿を

嘲笑ったのは司さんだった。

「なにを今更純情ぶっているのよ?」

伝う涙を拭きながら、司さんを見据える。

「だから、キスなんて、たいしたことないって言っているの。あんたは何様のつもりなのよ?ふざけないでよ。あんただってただの淫乱のくせして。」

その後で続く声も

やはり同じような感じで

それくらいの事で泣く私が

悪いとされた。私が涙を拭いて、

「すみませんでした。」

そう謝ることで事は収まり、

私以外の皆は

盛り上がってその場を楽しんでいた。



それは只のきっかけでしかない。

たまたま今日、

このタイミング起こっただけだ。

昨日起こっていたことかもしれなかった。

明日起こることだったのかもしれない。

落とし穴だらけの危ない道を選んで

歩いていたのは他ならぬ私で

落ちたときに

すぐ這い上がる力がなかったのも

やはりこの私だ。



この日を境にして私の中の何かが

ぶっ壊れた。