彼は私の隣に座って、

罪を犯して捕まって

刑務所に入っているときに

聖書を読んで

改心した事、

そして今は

生きている事そのものに

深く感謝をしている事、

道を歩いていて

ここに座っている私を見つけて、

一度は通り過ぎたものの、

思わず引き返して

声をかけてしまった

と言う事を説明した。

彼と私は、

夜が明けるまで喋り続けたが、

彼がどんな罪を犯したのか

私は聞かなかったし、

彼も言わなかった。

夜明け前、

籠に幾つかの

バラの花束を持ちながら

ガンジャを吸い、

完璧にキマった状態の男が

私達の元へ来て、

どうやら彼に対して

バラを売ろうとしているようだった。

彼はその中から

青いバラの花束を買い、

「今日の記念にもらってください。」

そう笑顔でいい、

私に手渡した。

青いバラなんて珍しいなと

思った私だったけど、

朝になって

太陽が差した頃

それが青いバラではなく

青色の着色料で染められたバラだ

という事が分かった。

ご丁寧にも彼は、

私をバス停まで送り届け

見送ってくれた。

彼は私に指一本ふれなかったし、

最後の最後まで紳士的だった。

別れ際に、

「もし君が香港にいる人であれば僕の彼女になって欲しかった。」

なんて

とてもロマンチックな台詞を

言ってくれたので、

笑顔で御礼を伝えたけれど、

どう頑張っても

刑務所上がりは無理だなぁ、

と心の中で毒づいた。



私はそうして帰国した。

青いバラの花束を

2階建てバスの先頭部分に

置き去りにして。