誰しもが受ける洗礼の中でも

私が、受けた洗礼は、

かなり強烈なもの

だったように思う。

それは

乗船1ヶ月の内に、

中国人上司に押し倒されて、

知らない人達から

夜な内線でラブコールを受け、

鈍感な私でも

気がつくほどあからさまに

なめ回されるような

視線で見られて、

その中の何人かと

少し話をしただけで

手を掴まれて、

掴んだ私の手のひらの上を

指でゆっくりなぞられる

という事だった。

指で手のひらをなぞる行為が

セックスの誘いだと言う事と、

その誘いに応じた場合の

セックスは、

良くても4人部屋、

最悪8人部屋の

キャビンの中の

カーテンだけで確保された、

唯一のプライベートスペースである

ベッドの上で行う事を知ったとき

オブラードに包まれることのない

人の欲そのものが

ぶつかってくることは、

恐怖だということを知った。

そして

頭が痛くなるほど続く

この行為は、

私が魅力的だから

男を魅了しているのではなく、

彼らが見ていたのは私ではなくて

私が持つ

日本人というブランドだ

という事に気がつくのは

そのすぐ後だった。


私を手に入れれば、

彼らと彼らの家族と

親族一同の生活が助かるという

私にはどうしようもできない

現実がある事を、

私が当時

会社からもらっている給料が

インドネシア人の15倍で

中国人の8倍で

フィリピン人や

マレーシア人の5倍である

ということを教わった後で

ようやく、

これまでの生ぬるい人生で

一度も他人にしてはこなかった、

暴言を吐く、

そして拒絶するという技を

習得した。

無知であることも

自分の主張を持たない事も、

ここでは

命取りになりかねなかった。