今日のランチも

どうせ彼女の相談事だろうと

思っていたら

全く違っていて、

『今週マカオに家族で旅行にいくけど一緒に行かないか』

という誘いだった。

私は彼の家に泊まった事もあるので、

彼の妹も両親ももちろん知っている。

『家族旅行なのに、お邪魔するのは申し訳ないよ。』

そう言うと、

彼は机の上に置いていた

私の手を握って、

私の目をまっすぐ見つめて、

『志保は最近やつれているようにみえるけど、本当に今の仕事は大丈夫なのか？』

と聞いてきた。

香港人で私が不法就労をしている事を

知っているのは彼だけだったし、

その事を固く口止めをしていた。

この仕事の詳細について、

何一つ言って無いのに、

やはり彼には何かが伝わったのだ。

浩賢は最初からそういう奴だった。

一緒に仕事していた時も、

チェックインカウンターから、

わざわざ私をからかいに来ては

馬鹿にして遊ぶ。

そうしながら

私の様子をいつも気にかけて

私が本当に辛い事を察しては

慰めや労りの言葉以外の方法を使って

不器用に

だけど私にそれとちゃんと伝わるように

私の心に寄り添ってくれた。

彼のこの不器用な優しさは、

私が広東語をもっと理解していれば

あるいは彼がもう少し英語ができれば

きっとスマートに言葉で

表現する事ができたはずで

だけどそれでは

私の心に響く事はないように思えた。

こうして私に対してだけ向けられる

浩賢ならではの

不器用な優しさの表現方法を

言葉で通じ合える彼女は

きっと知ることはなかっただろう。

相変わらずの彼の優しさに

嬉しくなった私は

じゃあ一緒に行く。

そう言って

心からの笑顔で

浩賢のあたたかい手を握り返した。