そして彼女は

ようやく微笑んでくれたから

安心した。

彩の本音を掴むのは

雲を掴むようなものだと

思っていた私だけど

少なくとも

心の声が分からなくなる状態にまで

自分をもっていかなければ

生きられなかった彼女に

そうでなくなる日が来ればいいな

と思った。



彩と私の生活はそんな感じで

あっという間に流れて

彩はお店の常連さんと

ちゃんと付き合う事となって

それと同時期に広東語はおろか

英語さえ片言しか喋れない彼女が

唯一持っていた

向島芸者の経験を買われて

某有名ホテルでの就職が決まった。

彼氏の家に転がり込む形で

寮を出て行く事になり、

私は彼女の引っ越しを手伝ったけど

たった数ヶ月で

さらに増えていた彼女の荷物の多さに

そして引っ越し先である彩の彼氏の

家の汚さに身震いした。

こと部屋に関しては

やっぱり似たもの同士だった。

前述したとおり、

この先もお掃除能力を生かして、

様々な片づけられない人々のお部屋を

アルバイト代わりに

掃除していくことになるのだけれど、

あれより汚い部屋は

未だかつて見た事がない。

丸一日かけて掃除をしたけれど、

何も片づかずに終わってしまった。