2003年3月、

スターフェリーを使って

香港島の中環から

九龍島の尖沙咀に着いた私は

改札を出て、

星光行の雑居ビルと、

何の船も泊まっていない

オーシャンターミナルを眺めて、



ぞっとした。




私の目の前に広がる光景は、

かつての香港ではなかった。

この2年間、

人ごみの中を掻き分けて歩いてきた、

いつもたくさんの人と

騒音で溢れかえっていた、

香港生活の中で私が最も長い時間を

費やしてきたであろうこの通りには、

その建築物だけが残り、

あらゆる人と音が消えていた。



ついこの間まで

日用品の買い物をしていた

屈巨氏(ワトソンズ)からも、

出稼ぎ労働者でごったがえしていて、

いつでも人が絶えることなく

行列を作っていたマクドナルドからも、

私も何度かは使ったことのある、

茶餐厅と呼ばれる

香港の一般的な喫茶店からも。



昼間から

誰一人として街中を歩いていない大都会

これは、半端なホラー映画より

怖いのかもしれなかった。


まるで、香港が死んだかのように見えた。