キスより甘く囁いて



*雅SIDE*





凛は帰った。

凛には失礼だけど、嵐が去った気がしてほっとした。

凛は、私をからかってくる。

長い付き合いだけど、未だにああいう「女慣れ」したようなとこは苦手。


「はあ…」


私はわけもなくため息をついてから、時計に目をやる。

もうすぐ長い針が12を指そうとしている、



♪ピンポン


絶妙なタイミングだ。

私は「はーい」と返事をしながら、小走りで玄関へ向かう。

誰が来たかは、確認せずともわかる。
予定されていたことだから。


「いらっしゃい、叶多くん」


玄関を開けると、そこには無邪気な笑顔が私を待ち受けていた。


「こんにちわ」


茶色いふわふわしたパーマをあてた叶多くんの髪が揺れた。

私は思わず撫でたくなったけど我慢した。


「どうぞ、入って」

「お邪魔します…うわ、なんか緊張する」

「ゆっくりしてよ。散らかっててごめんね」

「んーん、雅らしい部屋」


叶多くんはそう言って私の部屋を見渡すと、ニッと笑ってみせた。


胸が、何ていうか、狭くなった気がした。

これを俗に「胸キュン」と呼ぶらしい。

こんな感情とは無縁だと思って生きてきたけど…、高校に入学して叶多くんと出会って、その笑顔を見た時からだった。

私のドキドキが止まらなくなったのは。



色々と優しくしてくれて、素直な彼。

屈託のない笑顔が何ともかわいく思えた。



いつしか私と叶多くんは、2人で遊んだり、話したりすることが多くなった。


もしかしたら、もしかしたらの話だけど、私は…叶多くんを好きなのかもしれない、とも思う。




この事は凛には言ってない。

言う気もなかった。

邪魔されたりからかわれたりするのがオチだろうから。

ただ、私に何でも言ってくれる凛に対して、何しか隠し事をしてるみたいだった。