帰国直前に、

もう一度病院の指示で診察を受けた。

殺した者は殺した者で

帰ってくるわけがないのだから、

今更自分の身体なんて

本当にどうでも良いと思ったし

むしろ去勢手術代わりに不妊症になって

一生子供ができない身体にでも

なればいいだろうと、

本当に失礼で愛のない事を考えたが、

今回の事で、

日本の医療の素晴らしさを再認識し、

二度とサイパンのあの病院だけには

行きたくもなかった。


 
「まぁ経過も大丈夫だと思います。本来ならもう一度来て欲しいのですが、今回のご事情は知っていますので、薬を多めに渡しておきますね。」
 
「はい。今回は、本当にご無理を言いました。ありがとうございました。最後に、一つだけお願いがあります。」
 
「どうしましたか?」
 
「あの、いまそのカルテにあるエコーの写真を、頂戴してもいいですか?」

「それはできませんね。」
 
「どうしてですか?」
 
「忘れるという事も、大切だからですよ。」
 
「どうしても、頂けないわけですね?」
 
「はい。渡す事はできません。」
 
「分かりました。お世話になりました。」

私は、忘れたくはなかった。

あの命は私に確実に何かを与えつづけた。

なのに、私に無惨に殺されたのだから。

不条理な死に方をさせたのは、

私だ。

彼と私の子供だったら、

それはもう間違いなく

どこかが変わった子供で

だけど絶対に可愛かっただろう。

夢見がちでも

馬鹿でも

ひねくれていても。


失った後では、

そんな事くらい、幾らでも思い描けた。