春。


玄関を開ければ、満開に咲き乱れていた桜も、名残惜しくもほとんど散ってしまった。


散ったあとの花びらが道路に散らばり、草もすっかり青くのびて初夏を感じさせ始めていた。




そんな春の終わりの柔らかい朝の日差しのなか、彼は当然のようにそこにいて。


眩しそうに目を細めて、おはようと言って微笑んだ。


そして私も、おはようと返した。



これはもう、習慣と化している。



彼はどんなに寒い冬の日でも、朝に玄関を開ければ必ずそこにいて私に笑いかけてくれる。



そして一緒に登校するのだ。



最初は恥ずかしかったけど、最近はそれが逆に嬉しいと感じるようになっていた。




「もう、春も終わりだね」



「そうだな」




黒髪を心地よい涼風で揺らして、葵は頷いた。




そして、柔らかくわらって


「璃依、キスしていい?」



「ばっ…!ばっか!何いきなり!!」



私が怒って葵を睨み付ければ、楽しそうに笑って頭をくしゃっと撫でた。



こうやって葵は、わざと私が怒るようなことをして楽しんでいる。


それは、相変わらずなんだ。