「…は?」
「てめぇは男らしく身を退いたつもりなんだろうけど、そんなのはただ情けないだけだ」
馨は、ふっ、とどこか寂しげに笑う。
「好きな女は、何があっても離しちゃいけねーんだ。女が傷つくなら、守ってやればいい。お前が悪者になってでも、そばにいて大事にしてやれよ」
最後にわしゃわしゃと俺の頭をなでまわし、カッコよく決め込んで部屋を出た馨。
……我が兄ながら、恥ずかしいくらいのキザだ…。
でも、かっこい…
「ぎゃーーーーっ!!ゴキブリ出たーーーー!」
……やっぱ、カッコ悪…。
リビングから聞こえた兄の無様な叫び声に、俺の兄に対する一瞬芽生えた尊敬は瞬く間に消え失せた。
大の大人が、ゴキブリなんかで悲鳴あげるなよ…。
呆れ返りつつ、俺は情けない兄のためゴキブリ退治に向かったのだった。

