「――寒い…っ」
突然吹いてきた北風に身体を縮めた。
真冬の、それも真夜中に吹く風は“寒い”というよりも、“痛い”と言ったほうが正しいのかもしれない。
あたしと舞は高校へ向かって歩き始めた。
“上司がくちうるさい”だとか、“雑用ばっかり”だとか、仕事の愚痴を漏らしながら。
「ねぇ、ふたりでこうして高校に向かって歩くのって、すごい久しぶりじゃない?なんか…高校時代を思いだすなぁ…」
「…うん。久しぶりだよね……あの頃は、本当に楽しかった…」
……本当に、楽しかった……
あの頃は、遠くにだったけど“彼氏”という存在がいた…拓馬の“彼女”でいられた。
あの時のあたしはまだまだ子供だったから、会いたいときに会えないっていう些細なことで…何度も拗ねて拓馬を困らせたっけ……それでも、お互いがお互いを大切だと思っていたから、喧嘩も試練も乗り越えられた。
あの頃に…戻りたい…
「……さゆ?ねぇ、大丈夫?」
「―え?…あ、大丈夫。ごめんね」
舞はあたしの顔の前で手をひらひらとさせていた。
…また思いだしてしまった…忘れると決めたのに。
それほどあたしにとって拓馬の存在は大きいということだ。
「高校ついたよ?用があるんでしょ?」
気が付けば高校が目の前にあって、ずいぶん長い時間あたしがボケッとして歩いていたかを思い知らされた。
